三重苦ゴルファーの日記

69歳になった飛ばない・寄らない・入らないの三重苦を持つシニアゴルファーの日記です。

ラグビーW杯と将棋王座戦

 今日は敬老の日という祝日ですが、私の年代では15日が敬老の日という感覚で、なんとなくイメージが湧きません。
 調べてみると、敬老の日が国民の祝日として9月15日に制定されたのは昭和41年(1966年)からで私が小学生の頃でした。


 日にちがその年により変わったのが平成15年(2003年)からであり、それ以降は9月の第3月曜日になったのですが、学生時代から就職してからも敬老の日はずっと15日だったため身体に染みついているようなものなのです。


 ちなみになぜ当初の敬老の日が9月15日だったのかという理由は、兵庫県のある村の村長が「子どもの日」や「成人の日」が祝日に制定(1948年)されたのに老人の日がないことに疑問を持ち、村主催の「敬老会」を9月15日に独自に開催したことが始まりです。
 稲刈り前の農閑期に当たる9月中旬がよいだろうと9月15日に決めましたが、その日に特別の意味があったわけではないようです。


 その後、この動きが兵庫県内の各市町村に広がり、1950年に兵庫県が9月15日を「年寄りの日」に制定し、その後も老人福祉法では9月15日が「老人の日」になっていて、その流れで「敬老の日」も9月15日になったということです。


 さて、現在はラグビーのW杯が行われ、早朝に日本対イングランド戦が行われましたが、
日本は12-34で敗れています。
 ターニングポイントになったのは、12-13の1点ビハインドで迎えた後半16分のプレーで、イングランド選手のパスが別の選手の手に触り、そのボールが後方にいた選手の頭に当たって前に零れ、それを拾ったイングランド選手が難なくゴール内でトライしたというプレーでした。


 ビデオ判定の結果、トライが認められましたが、その際に数人の日本の選手は「ノックオン」の反則だと思って足を止めてしまっています。
 確かにボールはイングランド選手のパスの中で前に零れたので一見すると「ノックオン」の反則があったように見えますが、実際は頭に当たっていたため「ノックオン」にはならなかったのです。


 日本の選手は自分で判断せずに笛が鳴るまで集中してプレーを継続すべきでしたが、それを怠り失点に繋がっています。
 もちろん、プレーを継続していたとしてこのトライが防げたかは分かりませんが、少なくとも最大限の努力をしての失点だったらまだしも、ポカでの失点はその後のゲームの流れに大きく響き、結果からも分かるようにその後の日本は無得点に対し、イングランドは14点を追加することになりました。


 それまでの接戦が一転してワンサイドゲームのようになったのが、この日本のセルフジャッジであり、日本の「しまった」と思う気持ちと「よし」というイングランドの気持ちがその後の攻防に影響を与えたのは間違いありません。
 勝負事は「最後まであきらめるな」と言われ、高校野球の甲子園でも大差の試合で最終回に大逆転が起こるケースが多く、「諦めない気持ち」「最後まで気を抜かない」が勝負事には大切な要素になります。


 話は変わって、将棋の王座戦五番勝負の第2局が12日に開催され挑戦者の藤井七冠が永瀬王座に214手で勝利し1勝1敗のタイに戻しました。
 将棋の勝敗が決するのはほぼ110手前後であり、その平均手数からすると214手という手数はかなり多いものです。


 その理由は、相入玉模様になったためで、挑戦者の藤井七冠は途中優勢になったものの永瀬王座の粘りにあい、途中から入玉を目指し負けない将棋を選択しています。
 入玉とは相手陣の3段目内に自玉が入り込むことをいい、そうなると相手は詰ますことがかなり困難になります。
 双方の玉が入玉すると両者が合意することで「点数法」という持ち駒の数で勝敗を決めますが、「合意」ということは両者ともに点数を満たしていることになり「引き分け」となって最初から指し直しになるというのがルールなのです。


 この王座戦2局では藤井玉は永瀬陣に入玉して負けない形になっていますが、永瀬玉は藤井陣には入らず、まだ詰みがある可能性を残していました。
 それは永瀬王座が入玉しても持ち駒の点数が不足していたためで、入玉して「合意」すると「負け」が確定してしまうし、できれば藤井七冠の駒を取って点数を増やしたいと思っていたのでしょうが、その取れる駒もなかったのです。

(「入玉」とは相手陣内の3段目内に自玉が侵入することをいう)


 ではなぜ、こんな圧倒的不利な永瀬王座が無駄に思えるような手数で粘ったのでしょうか?
 将棋では特にプロの棋士にとっては「棋譜が汚れる」ことを嫌い、形作りして投了するのが美学だとされています。
 つまり、永瀬王座は挑戦者の藤井七冠の玉を詰ませる方法はなく、自玉を入玉して「点数法」での勝負になっても24点という規定点数不足で「負け」という状況だったので、無用に長引かせても無駄足搔きだと思われそうでした。
(※500手まで粘れば引き分けになる規定もありますが、それには先が長い)


 しかし、この時点でも永瀬王座に勝つチャンスは残っていたのです。将棋は相手玉を詰ますゲームですが、入玉してしまえば詰ますことができず、結果的に「引き分け」という勝負がつかないケースが起こり得ります。


 将棋と似たようなものに囲碁がありますが、囲碁の場合は先手(黒)有利と引き分けを無くすために6目半のハンデを最初に付けておくことで引き分けがありません。
 しかし、将棋では「千日手」(同じ指し手を規定回数続ける)や「持将棋」(相入玉での合意)という引き分けが起こる可能性があり、プロの対局でも時々起こります。


 永瀬王座の棋風は粘り強さであり、長手数も厭わないという戦い方が「見苦しい」という批判を受ける部分ですが、反対に見るとプロである以上「勝ち」の可能性が残っているのであれば最後まで勝ちに拘る部分がプロらしい姿でもあるのに、将棋の世界での美学には当てはまらないことで批判されるのは少し可哀そうだと思っています。


 今回の終盤で永瀬王座に勝ちの可能性があるとすれば、それは入玉している藤井七冠が「入玉宣言法」で勝ちを宣言する際に間違えてしまうことでした。
 入玉すると相手玉を詰ますことが困難なため、相入玉すると双方に詰みがなくなり、だから「合意」で点数計算勝負になるのですが、永瀬王座に点数が足りない以上、入玉せずに粘るしか道はありません。


 ただそうなると無駄に時間と手数だけかかるため、2013年に日本将棋連盟は「入玉宣言法」という新しいルールを導入し、着手する側が「宣言」を行って対局を止め、その時点での条件によって勝ちを得るというルールを採用しています。


 ここで重要なのが、永瀬王座の玉は入玉前なので「入玉宣言法」は使えず、使えるのは入玉を果たしている藤井七冠側だという点です。
 相入玉のように24点という持ち点条件は同様でも、ここに相入玉とは別の条件が1つあり、それは宣言する側の駒が玉を除いて相手陣内に10枚なければならないという規定でした。


 211手時点で盤面をみると24点に満たない22点しかない永瀬王座に対し、32点ある藤井七冠の駒は永瀬陣内には8枚しかなく、もし24点以上ある藤井七冠が勝つと勘違いして「入玉宣言法」を採用していたら、この場合は宣言した藤井七冠が負けになってしまうことになっていました。


 プロだからそんな間違いはしないだろうと思ってしまいますが、このルールが制定されてからまだ日が浅いこと、併せてこれまで公式戦での実例がたった1局しかないことからも分かるようにリアルタイムで見ていた私もなぜ永瀬王座は入玉もせず粘るのだろうと疑問に思っていたのですが、永瀬王座はこのルールを知っていて万が一にでも藤井七冠が「宣言」してくれたら勝ちが転がり込むと考えていたわけです。


 圧倒的に不利な状況で逆転も出来ない、残る勝ちの可能性は相手のルール違反だけしかなく、そのルールが比較的新しく勘違いし易い部分があることから一縷の望みをかけていたことだと推測できます。
 もちろん、藤井七冠もそのルールを知っていたからこそ「宣言」を行わずに最後は永瀬逆を詰ましに行ったのですが、もし新しいルールを知っていても古くからある相入玉法での決着だと勘違いしていたら間違って「宣言」してしまっていてもおかしくはない状況でした。


 ラグビーでの数人の選手が個の判断でプレーを止めたことと、将棋での無駄に思える粘り、関係ないようでも本来あるべきプロとしての姿勢を教えられた気分でした。